大坂屋の嫁
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昔、与板に大変心のやさしい若者がいた。

ある秋のザイの張るような寒い朝、若者はぞうりを腰にはさんで稲刈りをしていると、そこへ弥三郎婆が通りかかった。

若者を取って食おうとこっそりとしのび寄って来た。

弥三郎婆の近づいてきたことに気づいた若者は、これが有名な人食い鬼婆とは知らずに、みるとこの寒いのに裸足で歩いているのを見て、

「おばあさん、この寒いのに裸足でさぞ冷たいでしょう。さあ私のぞうりを履いてください。」と言って腰にはさんでいたぞうりを取ってはかせてやった。

これにはさすがの鬼婆も心を打たれて「お前に嫁があるのかね。」と尋ねた。

若者は、「私は一人ものだが、貧乏で嫁に来てくれる人がなくて困ってるんだが誰かいい人があったらお世話して下さい。」と言うと

婆は「おれにまかせておきなさい。」と言うなり風を起こしてどことなく行ってしまった。

しばらくして弥三郎婆は大阪の長者鴻池家の前に現れた。

今日は娘が京都の角倉家へ嫁ぐためカゴに乗って出掛けるところであった。「この娘をもらってゆくぞと言ってカゴごとさらって、また風に乗って越後へ戻ってきた。そして若者の前でカゴをおろし、「嫁さんを連れてきたぞ。」と言って娘を置きまたどことなく消えてしまった。

やがて二人は夫婦になり、そして子供も出来た。親子三人で鴻池家へ里帰りをしました。

鴻池家では死んだと思っていた娘が子供まで連れて帰ってきたのだから大喜びで二人の結婚を許し、帰りには小判などたくさんの土産を持たせました。二人はこれを資本にして酒造業を始め、屋号を「大坂屋」と名付け、たいへん繁盛しました。

その後大坂屋は「与板の殿様一万石、大坂屋は二万石」と盆踊り唄に歌われるほどの大金持ちになりました。